所収の順でいうと、『月のアペニン山』『楢山節考』『東京のプリンスたち』『白鳥の死』の四編なので、『月のアペニン山』から読んだ。気がふれた妻と別れる男の話。精神を病むことって、今ではいくらか理解されてるような気もするけど、まだまだだとも思う。この短編中では時代が古いせいもあって、妻が精神病だとわかったってただそれだけで弁護士に相談して別れちゃうんだから。遠目から元妻を見て、まるで「月のアペニン山」でも眺めるように、つまり人間としてではなくモノとしてとらえているところで終わる。まったくひどい時代の話。
『楢山節考』も、今では考えられない話である。貧しい部落の掟として、年老いたものは「楢山まいり」として山に捨てに行くのだ。そこでは「ねずみっ子(孫の子、つまり曾孫)」を抱くことは嘲笑に値する。また、主人公のおりんは自分の歯が丈夫であることも恥じていて、火石で打ち、臼にぶつけて折ってしまう。今では曾孫を抱くことは幸せなことだし、身体が健康であることもまた然りなんだけど、時代が時代だけにそれらはみな逆の意味を持つことになる。
読んで「現代に生きていて良かった」と思うと同時に、戒めにもなったのでした。
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