『イン・ザ・プール』(記事)、『空中ブランコ』(記事)に続く、奥田英朗の精神科医・伊良部シリーズの第3弾。
4つのおはなし。(所収順)
- 不眠症と暗所・閉所恐怖症の新聞社プロ野球団オーナー、ナベマンこと田辺満雄の話「オーナー」
- 平仮名が思い出せなくなったIT長者、アンポンマンこと安保貴明の話「アンポンマン」
- 若さと美貌への執着が病的になった歌劇団出身女優44歳、白木カオルの話「カリスマ稼業」
- 離島での熾烈な選挙戦に巻き込まれた都庁職員、宮崎良平の話「町長選挙」
3つは誰でも容易に想像できちゃう実在の有名人がモデルだろうなってことで、基本、シリーズに連綿と通底する伊良部節。ニヤニヤしながら安心して読める。表題作「町長選挙」のモデルは人物ではなく島だ。ページ数も多めに割いてある。この短編集で異色といえば異色である。でも期待通りどれもおもしろかった!
印象に残ったのは伊良部の「物事、死人が出なきゃ成功なのだ」っていうバカボンのパパばりのあっけらかんとした一言。これが伊良部の真骨頂かも。シリーズを見渡しても、ちらほらとそういうシーンがある。いちばんわかりやすいと思うのは、
『空中ブランコ』所収「女流作家」P.279
「先生、お医者さんの無念って何ですか?」愛子が聞いた。「そりゃあ患者さんが死ぬことだよ」伊良部が鼻に皺を寄せて言った。そうか、医療の現場は人の死と直面するのか。安易に想像するのが失礼なほどの、大変さだろう。「医局員時代、ぼくは内科にもいてね。小さな子供が治療の甲斐もなく亡くなると、担当したみんなが泣いたね」そうだろうな。胸が張り裂けるとはこのことにちがいない。
ってあたり。曲がりなりにもこいつは医者なんだな、と思う。思うけど、そのあとすぐに伊良部節が炸裂する。
「弔いのカラオケをやろうって誘っても、みんな乗ってこなかったもんね」
それから、まさか「レクター博士」という言葉が飛び出すとは思わなんだ。(チョムゲブログ:レクター博士)一瞬考えたあと、ああそうか、伊良部もレクター博士も「精神科医」だったわ、って思い出した。
綺麗なので3冊並べておきますね。
うん、いい眺めだw
ここから余談です。『空中ブランコ』の記事で書いたように、文庫化されるのを待つつもりだったんですが、たまたまブ○クオフをぶらぶらしていたら単行本の方があったので買ってしまいました。そして直後に文庫版が出て、あちゃー、と。単行本を中古で買うのと、文庫本を新品で買うのはだいたい同じくらいの価格だったなとか、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』と文庫で読んだんだから『町長選挙』も文庫を待てばよかった(表紙がシリーズを通じて統一された赤ちゃんのデザイン)とか、後から言ってもはじまらないことばかり思いました。なら単行本売っちゃって文庫版買いなおせよってなりますかね? なりませんよね。まあいいや、中身は一緒だから・・・って、中身が一緒で価格が一緒なら中古でなく新品を・・・とか、つるピカハゲ丸くんか俺はw。