2009年12月19日

ファニーゲーム U.S.A.(ネタばれ注意)



これはヤバい。映画じゃなくて、俺が、ヤバい。

手短に言うと暴力描写・性描写なしのスプラッター。

でも、ちゃんと一家は全員殺されるし、母親(ナオミ・ワッツ)は丸裸にされる(もちろんあとで殺される)。どういうことかというと、観客の頭の中に描写する、とでも言おうか。

ネットでこの映画に言及している記事をちょこっと読んだんだけど、十中八九口をそろえて「不快な映画」とか「痛々しい映像」ってあった。

でも考えてみたら、言うほど不快でも痛々しくもないんじゃないか? もっとグロい映画なんて棚ひとつぶん以上あるし。



ポイントをつかむための質問。

観客が望んでいることとは何?

もう少し丁寧に言えば、「スプラッターホラーを観るために、映画館に足を運んだり、DVDを買ってきたりする人たち、が望んでいることとは何?」

――そうだね、醜悪な殺人鬼とほとばしる血しぶきだね。

で、この「ファニーゲーム U.S.A.」なんですけど、まず、犯人が美青年。そして、被害者の血液はほとばしらない。はい、残念。

あるとしても、死んだことを明示するために壁に血が付いているカットが入るぐらいなもん。そうしたらさ、観客は想像するしかないわけじゃん。ナオミ・ワッツの贅肉の付いていない裸体とか、頭を吹っ飛ばされた子供とか。

で、終盤において劇中で唯一、ショットガンで人が撃たれてふっとぶシーンがあるんだけど、これが曲者で、撃たれるのが犯人ふたりの片方なの。ナオミ・ワッツが撃つわけ。ダーンっつって。それで(こっから重要だよ)、残った方の犯人が、リモコンどこやったっけクソッとか何とか言って、リモコン見つけて巻き戻すわけ。巻き戻すって何を? この映画を。そしてショットガンのシーンの少し前まで戻って、今のがなかったことになっちゃう。

わかる? そう、観客が求める、もうひとつの事――救い、とでも言おうか――要するに犯人をショットガンでブチ殺す、大逆転、そして命からがら逃げのびる、ああ、怖かったー・・・、っていうありがちな展開。これを、いったん観客に暗示して想像させておいてから、「今のナシだしwww」って言っちゃうような感じ。

それと、被害者としゃべってる途中で犯人がいきなりカメラ目線で観客に語りかけるところ。何箇所かあるんだけど、犯人がふとこっち向いて「みなさん、これでいいんすか?」とか何とか言うんだけど、これだって普通ありえないだろ。百歩譲って役者のカメラ目線はありうるよ。その場合、カメラが登場人物のだれかの目線ってことで、スクリーンに映ってる役者はその相手に語りかけてるわけ。登場人物が登場人物に話しかけるわけ。あくまで劇中でしょ。でも、この場合、おもっきり観客相手に語ってるわけ。犯人が観客に「さて、こっからどうなって欲しいの、あなたは?」って。となると、観る側もそれなりに何かしらの展開予測を立ててしまう。

だから、この映画の感想として、「ただただ不快、フラストレーション全開」って思った人は、突き詰めれば、自らの展開予測(あるいは「こうあってほしい」という願望)をズタズタにされた、っていうのが本当のところなんじゃないでしょうか。じっさい、ありがちなスプラッター映画では全然ないし。観る人によっては無意味だとしか思えないような長回しとかもそのひとつ。


  • 野獣のような殺人鬼に内臓脳みそ眼球えぐりだされる場面観てぇ!
  • 辱められるパーフェクトな身体を持つ女性のヌード観てぇ!
  • あげく、野獣が美女に吹っ飛ばされてうーんカタルシス!あーすっきりした!

・・・と、こういうのを全部否定するスプラッター。



そういう意味合いにおいて、観終わった後に、さほど不快感が残らなかった俺はヤバいって言ったの。怖くないのは当たり前だけど、そんなんじゃなくて、「うん、こういうのもアリだな」って、妙に納得しちゃったから。うまいこと撮ったもんだなーって。

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