2009年2月14日

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性

私たち人間は、何を、どこまで、どのようにして知ることができるのか?いつか将来、あらゆる問題を理性的に解決できる日が来るのか?あるいは、人間の理性には、永遠に超えられない限界があるのか?従来、哲学で扱われてきたこれらの難問に、多様な視点から切り込んだ議論(ディベート)は、アロウの不可能性定理からハイゼンベルクの不確定性原理、さらにゲーデルの不完全性定理へと展開し、人類の到達した「選択」「科学」「知識」の限界論の核心を明らかにする。そして、覗きこんだ自然界の中心に見えてきたのは、確固たる実在や確実性ではなく…。
目次
序章 理性の限界とは何か
選択の限界/究極の限界値/科学の限界/知識の限界/ディスカッションのルール

第一章 選択の限界
1 投票のパラドックス
コンドルセのパラドックス/ボルダのパラドックス/アメリカ合衆国大統領選挙の矛盾/フランス共和国大統領選挙の矛盾
2 アロウの不可能性定理
コンドルセ勝者/複数記名方式と順位評点方式/パウロスの全員当選モデル/完全民主主義の不可能性
3 囚人のジレンマ
タッカーの講演/ウォーターゲート事件/繰り返し囚人のジレンマ/コンピュータ・コンテスト
4 合理的選択の限界と可能性
ミニマックス理論/ナッシュ均衡/チキンゲーム/社会的チキンゲーム/集団的合理性と個人的合理性

第二章 科学の限界
1 科学とは何か
科学と理性主義/天動説と地動説/ラプラスの悪魔/ハレー彗星の予測
2 ハイゼンベルクの不確定性原理
光速度不変の原理/相対性理論/ミクロの世界の不確定性/実在的解釈と相補的解釈
3 EPRパラドックス
実在の意味/二重スリット実験/神はサイコロを振るか/シュレーディンガーの猫
4 科学的認識の限界と可能性
進化論的科学論/パラダイム論/方法論的虚無主義/何でもかまわない

第三章 知識の限界
1 ぬきうちテストのパラドックス
集中講義の疑問/エイプリル・フール/オコンナーの語用論的パラドックス/スクブリンの卵/クワインの分析
2 ゲーデルの不完全性定理
ナイトとネイブのパズル/命題論理/ナイト・クラブとネイブ・クラブのパズル/ペアノの自然数論/述語論理と完全性/自然数論と不完全性/不完全性のイメージ/真理と証明
3 認知論理システム
ゲーデル数化/認知論理/ぬきうちテストのパラドックスの解決/認知論理と人間理性
4 論理的思考の限界と可能性
神の非存在論/テューリング・マシン/ティーリング・マシンの限界/アルゴリズム的情報理論/究極の真理性Ω/合理的な愚か者

おわりに
参考文献
さまざまな領域での、現在の時点での人類の到達点とその限界、そして可能性を、それぞれの立場の人たち同士のディスカッションという形式でざっと網羅した本。物語ではないのであらすじも当然ない。そこで目次を引用してみたわけだが、はっきりいってとっつきにくい印象を感じるかもしれない。中身はそんなに難しくないです。一般の人間も参加するシンポジウムという設定なので、専門用語は極力使わないように書いてあるし、使うときはわかりやすく説明がある。だから大丈夫。むしろ、この目次を読んで中身が把握できる方の場合、本書は必要ありません。大学の図書館で専門書を紐解きましょう。

第一章ではアロウの不可能性定理について書かれています。詳しい説明は読んでもらうとして、要するにこれは「完全に公平な投票方式は存在しない、したがって、そのような投票方式に依存する完全民主主義も存在しない」ということです。これを元に「選択の限界」を明らかにします。人間が生きるうえで選択は避けることはできない、いやむしろ、生きることは常に選択の連続であるとも言え、この問題を考えることはヒッジョーに有益。

第二章ではハイゼンベルクの不確定性原理について書かれています。詳しい説明は読んでもらうとして、要するにこれは「あらゆる観測精度には限界がある」ということです。これを元に「科学の限界」を明らかにします。個人的には量子論的実在の解釈がおもしろかった。水素の原子核の周りには一個の電子しか存在しないが、この電子は、原子核の周囲の至る所に存在し、いわば周囲を満たしているという。なんか、カート・ヴォネガット『タイタンの妖女』を思い出したわ。

第三章ではゲーデルの不完全性定理について書かれています。詳しい説明は読んでもらうとして、要するにこれは「どんな完璧なシステムにも穴がある」ということです。まあ、まったく意味不明かもしれませんが、たとえば、数学の世界の真理で未知の領域があり、それをいつかは誰かが解明してくれるだろうと我々は漠然と考えたりするわけですが、数学といえどシステムである以上、永遠にたどり着けない領域があることをゲーデルは証明してしまったのです。

著者の高橋昌一郎氏が論理学・哲学の専門家であることから、極端な話、「屁理屈」です。ただし、間違いじゃないし、嘘でもないんだなあ。マジなの。

でも考えてみたら、ある程度いろんなことが可能になってきたら、「これは無理、それも無理」っていうふうに線引きをしていかないといけないんだよね。

ただ、歴史をみれば分かるように、常識は覆ることがあるから、もしかしたらまだ、どんでん返しがあるかもね。それを踏まえたうえでも、今現在の人類の到達点を分かりやすく紹介する本書はグッド。2008年6月に出たばかりなので、まあ新しいと言えるんじゃない?



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