カズオ・イシグロの長編。(原題:"NEVER LET ME GO")
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。(Amazonより)
泣くとか泣かないとか、そんな程度の心の震えでは収まらない。(本書帯より)
いきなりネタバレから入りますね。なので、未読でかつこれから読む、かつ予備知識なしがいいという方はここからは読まないでください。上の書影画像をクリックするとAmazon.co.jpの当該ページが開きますので(文庫版です)、お求めになり一読し、またいつかこのブログに戻ってきてください。まあ、後で述べますが、思うに、本書はネタバレの有無で作品の面白さ、感動、その他もろもろの価値がぼやけてしまうようなものではないので、別に構わないと俺は思ったりするのですが、そのへんは人それぞれなので^^;
---------- 再開 -----------
「提供者」はドナー、つまり臓器提供者と言った方がわかりやすいでしょう。しかもこの作品の中の「提供者」は「提供者」になるために産まれた、早い話がクローン人間です。語り手のキャシー・Hも例外ではありません。ヘールシャムはそういった子供たちを育てる施設です。
ヘールシャムの保護官たちは(他の同様の施設と違い)あくまで人道的に彼らを教育します。そしてそのとおり彼らは絵画、文学、音楽といった、普通の人間が学ぶことを同じように学んで成長していきます。そうすることで「提供者」が人間以下の存在であると考える世間に抗う意味もあります。実はこれがけっこうこの話の肝だと思ってしまう読者が多いのではないかと思ったりします。この「謎」はストーリーの展開に合わせてだんだんと明かされていくので、これをミステリととる読者もいて当然かと。もっと言えば、SFのくくりに入れちゃう人もいるかもしれない、あるいは「SFミステリ」とか・・・。まあいいや、そのへんのくくり方は読者がそれぞれ勝手に決め付ければいいし、そうしなくてもいいし。ただ、書店は棚に並べるときに意識してジャンル分けしなきゃいけないのかなあと思うと、なんだかもったいない。
ジャンルはどうでもいいや、主題に話を戻すと、やっぱり倫理ってことになるのかな。クローンだろうがなんだろうがみんな人間だろうが!っていう。
本書はその全てで(つまり最初から最後まで)真相を丁寧に描くことに徹底しているし、人によっては真相に結構な衝撃を受けるかもしれない。でも、俺はちょっと別の見方をした。それは俺がミステリ慣れあるいはSF慣れしていて真相自体にはたいした驚きを持たなかったことからきているのかもしれない。深読みというか、視点変更というか、まあ、正直、ひねくれた読み方をしたわけです。w
というのは、もうクローン云々抜きにして(おいおい)、一人の女性の人生として読んだ、とでも言おうか。それはあまりにもリアル。特に印象に残っているのは、少女時代の学校生活。当然、クラスメイト(みんな提供者です、一応)がいるわけで。そうなると、いじめみたいな光景が書かれることになるよね。(ex. 噂話、自分たちだけの合図、目配せ、仲間はずれ、嫉妬、位相の優劣、あからさまな/陰湿な嫌がらせ、自己防衛、・・・etc.)これ省いてもストーリー的に大きな破綻はないと思う。でも、人間の、特に思春期の、しかも女の子の生態を書こうと思ったら、これなしだと嘘になるね。思春期って綺麗事じゃないから。まったくないから。それでも、友情とか恋といった美しい光景もあることも事実で、人が成長して大人になって振り返るときに思い出すほとんどはそっち。嫌な思い出や過去はたいていみんな封印するものです。だからこそそれらをリアルに丁寧に描くことは必要だとも言えるかもしれない。
そういう良かったり悪かったりの一つひとつのエピソードの積み重ねを、人は人生と呼ぶ。
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